心拍の先へ。米ARPA-Hが描く「体内を読む」ウェアラブルの未来

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心拍の先へ。米ARPA-Hが描く「体内を読む」ウェアラブルの未来

心拍数や睡眠時間を記録するウェアラブルは、すでに日常に溶け込んだ。次の問いは、体の表面に現れる変化だけでなく、炎症やホルモン、薬の濃度といった「体内の変化」まで継続して捉えられるかどうかだ。

米国の医療研究機関ARPA-Hは10月1日、次世代の個別化バイオセンサーを開発する「Delphi」プログラムの採択チームを発表した。最大1億1740万ドルを4年半にわたって投じる計画で、大学や企業の4チームが異なる身体信号の測定に挑む。これは新製品の発売発表ではない。医療現場で使える精度と安全性を目指す、研究開発の出発点だ。

一つの数値から、複数の「体内シグナル」へ

現在のセンサーは心拍や血糖など、測る対象ごとに専用機器を作ることが多い。Delphiが目指すのは、電源、信号処理、通信、センサー部分などを小さな「チップレット」として組み合わせ、用途に応じて構成を変えられる仕組みだ。研究機関ごとに機器を一から作り直す負担を減らし、装着型や飲み込み型など、さまざまな形へ展開する構想がある。

採択されたテーマは、その広がりをよく示している。MITは心不全に関わる指標を継続測定するパッチを開発し、体温から得たエネルギーと省電力のオンチップAIを使う。ニューヨーク大学は皮膚のすぐ下に置く微小なプローブで炎症を追い、無線電波から電力を得る方法を探る。ワシントン大学は汗の成分から更年期への移行を捉える非侵襲センサー、Novelnaは心筋梗塞後の炎症を見守る装着型センサーを開発する。

これらはそれぞれ異なる研究目標であり、一つの製品がすべてを測れるという発表ではない。とりわけ炎症やホルモンのような指標を日常環境で安定して測るには、測定精度だけでなく、個人差、装着の負担、結果の解釈を確かめる必要がある。

成果を見極める時間軸は「数年」

ARPA-Hの計画では、最初の18カ月で部品間の相互運用性と耐量子計算機の通信セキュリティーへの対応を示し、24カ月時点で生体内で動く最初の試作機を提示する。54カ月までには、低侵襲型で臨床試験、非侵襲型で人を対象にした使いやすさの調査を終える目標だ。採択チームへの資金は、こうした段階ごとの達成状況にも左右される。

つまり、「病気を早期発見できるウェアラブルが完成した」と受け止めるのは早い。発表が示すのは、血糖値の連続測定で知られる発想をほかの生体指標にも広げるための研究計画である。測定値から診断や治療の判断へ進むには、信頼できる検証と医療上の位置付けが欠かせない。

日本で問われるのは、測定後の設計

高齢化や在宅療養が進む日本では、通院の合間の変化を把握できる技術は魅力的だ。一方、数字が増えれば自動的に安心が増えるわけではない。誰がデータを見られるのか、異常値を誰が確認するのか、測定できない時間や誤差をどう伝えるのか。医療機関、開発企業、利用者が役割を分けて考える必要がある。

Delphiの構想で注目したいのは、センサーを組み替え可能にする設計と、初期段階から通信の安全性を要件に入れたことだ。ウェアラブルが「生活の記録」から「治療を支える情報」へ近づくほど、測れる項目の多さと同じくらい、測定の限界とデータの扱いを明確にすることが重要になる。


出典:ARPA-Hの採択チーム発表、Delphiプログラム概要。内容は2026年10月4日時点の公開情報に基づく。